東京地方裁判所 平成11年(ワ)22539号 判決 2000年5月24日
主文
一 被告は、原告に対し、二〇一八万三六九一円及びうち二〇一〇万七五三九円に対する平成一一年八月二五日から、うち二万六四四八円に対する同年一一月九日から、うち四万九七〇四円に対する平成一二年一月一八日から、各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、六脚ブロック、その他のコンクリート二次製品の製造販売及び工事施工並びにコンクリート二次製品の製造用機械及び鋼製型枠の貸与等を主たる業務とする株式会社であり、その株式は、東京証券取引所第二部に上場されている。
2 被告は、遅くとも平成一一年二月二六日までに、同日現在の原告の発行済み株式総数の一〇〇分の一〇以上の株式を有する至った。
3 被告は、原告発行の株式について、自己の計算において別表1ないし3記載の買付け及び売付けをして次のとおり合計二〇一八万三六九一円の利益を得た。
(一) 別表1記載の取引により 二〇一〇万七五三九円
(二) 別表2記載の取引により 二万六四四八円
(三) 別表3記載の取引により 四万九七〇四円
4 原告は、被告に対し、平成一一年八月二三口付け内容証明郵便で証券取引法一六四条一項に基づき別表1記載の利益金の返還を求め、右内容証明郵便は同月二四日到達した。
5 よって、原告は、被告に対し、証券取引法一六四条一項に基づく短期売買利益金二〇一八万三六九一円及びうち二〇一〇万七五三九円に対する内容証明郵便送達の日の翌日である平成一一年八月二五日から、うち二万六四四八円に対する訴状送達の日の翌日である同年一一月九日から、うち四万九七〇四円に対する訴えの変更の申立書送達の日の翌日である平成一二年一月一八日から各支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし4は認める。
三 被告の主張
証券取引法一六四条一項は、一定の会社役員・主要株主が、その職務又は地位により取得した秘密を不当に利用してインサイダー取引を行うことを規制し、もって一般投資家の利益を保護する趣旨の規定である。そして、同規定は、憲法二九条一項が保障する経済活動の自由としての株式売却の自由を制約するものであるから、同規定の解釈、適用に際しては、立法趣旨に照らして合理的に必要な限度で解釈適用が図られるべきであって、明らかに弊害のない事案についてまで短期売買利益の提供を求めることは、憲法二九条一項に違反するものである。
本件請求にかかる各取引は、いずれも被告が株式市場において原告発行の普通株式を取得し、その後被告の関連会社であるフリージアホーム株式会社に対し売り付けたものである。同社と被告とは代表者及び株主が同一であり、被告は単に同一グループ会社間で株式の保有を分散したにすぎず、一般投資家の利益を損なう行為を行ったものではない。また、本件各取引当時、被告は原告の経営に支配影響を及ぼしうる立場にはまったくなく、かえって、原告の経営陣と敵対する関係にあった。したがって、被告は、原告の内部情報を取得して不当に利用する関係にはなかった。以上の事情に照らすと、本件は、一般投資家に対し明らかに弊害のない事案であり、証券取引法一六四条一項の立法趣旨に照らして、原告の本訴請求は棄却されるべきである。
四 被告の主張に対する原告の反論
証券取引法一六四条一項の規定は、内部情報の利用の有無や実質にかかわらず、形式的、画一的に右同項の要件を満たせば会社に利益を返還させることによってインサイダー取引による弊害を予防する趣旨であり、右同項の適用に一般投資家の利益を害した事実等の実質的事実は不要である。
理由
一 請求原因1ないし4は当事者間に争いがない。
二 被告の主張について
証券取引法一六四条一項は、上場会社等の役員又は主要株主が一般の投資家に比べ当該会社の重要な情報を得やすい立場にあるところから、右役員等が職務又は地位により取得した秘密の不当利用を未然に防止し、内部者取引を間接的に防止する制度として設けられたものであると解される。そうであるところ、内部情報を不当に利用したかどうかの立証は一般に困難であり、また、一般投資家が損害を被ったかどうかの具体的な立証も困難であることから、右規定は、外形的に短期売買による利益が発生した場合に、現実に内部情報を利用したかどうかをとわず、会社に対し利益の返還を認めたものと解される。そして、このように解するとしても財産権に対する合理的な制限といえるから、憲法二九条一項違反の問題は生じないというべきである。被告の主張は、右と異なり、実質的な内部情報の利用による投資家の損害の有無を同規定適用の要件として加える趣旨のものであって、採用することができない。
三 結論
以上によれば、原告の請求は理由がある。
(別表1)
<省略>
(別表2)
<省略>
(別表3)
<省略>